大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(し)99号 決定

川崎市登戸二一三〇番地

被告人御園五一の弁護人申立人

中野初太郎

被告人御園五一に対する煙草専売法違反被告事件の控訴棄却決定に対する異議申立事件について昭和二六年一〇月一二日福岡高等裁判所宮崎支部がした異議申立棄却の決定に対し、右の申立人から特別抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

本件特別抗告の理由は、被告人御園五一は昭和二五年八月一〇日宮崎簡易裁判所において有罪判決の言渡を受け、これに対して控訴の申立をしたところ、福岡高等裁判所宮崎支部は控訴趣意書を差し出すべき最終日として同年九月三〇日を指定した。申立人は被告人の弁護人として同年一〇月五日控訴趣意書を提出したにもかかわらず、同裁判所は昭和二六年七月一〇日被告人及び弁護人中野初太郎が期間内に控訴趣意書を提出しなかつたことを理由として控訴棄却の決定をした。申立人は同月一四日右に対して異議申立をしたところ、同裁判所は異議申立を理由がないとして同年一〇月一二日異議申立棄却の決定をした。しかし、控訴趣意書の提出最終日とは強行不変の期間ではなく、控訴裁判所が審理の便宜上定めるに過ぎないものであるから、裁判所としては審理に支障ない限り、趣意書提出最終日期間経過後に提出された控訴趣意書であつても、これを受理すべきである。しかるに控訴裁判所がこれを受理せず、控訴棄却の決定をしたのを、原裁判所が是認し、異議申立棄却の決定をしたのは違法であるというのである。

しかし刑訴規則第二三八条は「控訴裁判所は控訴趣意書を差し出すべき期間経過後に控訴趣意書を受け取つた場合においてもその遅延がやむを得ない事情に基くものと認めるときは、これを期間内差し出されたものとして審判することができる」と定めて、右の「遅延がやむを得ない事情に基くものと認め」るか否かの判断を控訴裁判所の自由裁量にかゝらしめているのである。即ち本件特別抗告は、裁判所のかゝる自由裁量の範囲に属する処置を違法であると主張するに帰するから、法令違反の主張としてこれを採用することができないばかりでなく、刑訴第四〇五条に定める事由に該当しないから、いわゆる特別抗告の要件を欠いていると言わねばならない。

よつて、刑訴第四三三条、第四二六条第一項に従つて主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例